中国 北京

市場調査報告が商標授権・権利確定行政事件及び民事事件で果たす役割

作者:趙 春雨

「概要」:

中国の商標案件において、市場調査報告という証拠は、当事者も審判機関も探究的な段階にあり、こういう証拠に対する審査や認定の規則についてまだ明文化されておらず、若干の司法解釈のみが参考となります。

例えば、

「最高人民法院による馳名商標保護に関連する民事紛争案件審査の法律適用の若干問題に関する解釈」(法解(2009)3号)

第5条第3款:「商標使用時間の長さ、業界のランキング、市場調査報告、市場価値評判報告、馳名商標と認定されたことの有無などの証拠について、人民法院は馳名商標の認定に関する他の証拠を総合的に考慮し、客観的、全般的に審査を行うべきである。」

北京市高級人民法院が2014年1月22日に発表した「商標授権 権利確定行政事件に係わる審理ガイドライン」

第13条:「関連公衆が係争商標と引用商標を区別できるかどうかということに関して、当事者は市場調査の結果を証拠として提出できる。市場調査は、できる限り関連公衆が商品を購買する時の具体的な状況を模擬すべきであり、関連公衆の範囲、数量について確定し、関連公衆が商品を購買する時の注意程度及び全体対比、隔離観察、主要部分対比などの方法について詳細に記述すべきである。前述の要素が欠け、前述の要素に対する使用が間違っており、又はその調査の真実性を確認できない場合には、信用しない。」

 

司法業界の実務において、認定の標準も統一されていませんが、2004年からこれまでの一部案件について以下のとおり取り纏めました。

  • 「張小泉」鋏商標権侵害及び不正競争係争案件(「張小泉」案件)

上海市高級人民法院(2004)沪高民三(知)終字第27号民事判決書

-> 未採用

  • 頤中タバコと連智広告商標権利侵害係争案件(「頤中タバコ」案件)

青島市中級人民法院(2004)青民三初字第304号民事判決書

->採用済

  • 蒙牛乳業が蒙牛酒業を相手取って訴えた商標権侵害及び不正競争案件(「蒙牛」案件)

北京市第一中級人民法院(2006)一中民初字第1896号民事判決書

->採用済

  • 林俊深と宝潔会社の商標権無効宣告に係る行政紛争(「宝潔」案件)

北京市高級人民法院(2016)京行終489号

->採用済

  • 杭州奥普衛厨科技有限公司と浙江現代新能源有限公司などの商標権侵害紛争(「奥普」案件)

最高人民法院(2016)最高法民再216号

->未採用

  • 新百倫貿易(中国)有限公司と周楽倫の商標権侵害紛争(「新百倫」案件)

広東省高級人民法院(2015)粤高法民三終字第444号

->未採用

  • 古喬古希股份公司と機時商貿(上海)有限公司、格斯公司などの侵害商標権侵害紛争(「GUCCI」案件)

江蘇省高級人民法院(2014)蘇知民終字第0080号

->未採用

  • 上海益朗国際貿易有限公司と首創奥特莱斯(昆山)商業開発有限公司の侵害商標権紛争(「FENDI」案件)

(2017)沪73民終23号

->採用済

  • マイケル・ジョーダンと国家工商行政管理総局商標評審委員会とジョーダン体育有限公司の商標争議行政紛争(「ジョーダン」案件)

最高人民法院(2016)最高法行再15、20、25、26、27、28、29、30、31、32号

->採用済

 

上記ケースから見ると、裁判所が案件を審理する際、担当裁判官が案件ごとに、案件の状況、起訴人の主観的意図、他の証拠資料などを基に総合的に判断しています。また、裁判所は、内容が全面的に精確な調査報告は認める傾向があります。但し、手続きに瑕疵があり、内容に瑕疵がある報告については否定し、かつ全面的に採用しない傾向があります。

 

代理した市場調査案件の経験に基づき、実務でどのように市場調査を進めば良いかについて、ご参考までに、以下のとおりアドバイスさせていただきたいと思います。

「市場調査の目的」:明確かつ具体的であるべき。

「市場調査機関の選択」:市場調査報告を証拠として提出する場合、専門の市場調査機関により発行されたものを推奨。

「市場調査アンケートの設計」:

①必要な選別質問を設定する必要があり、関係のない公衆を排除する。

②調査目的に緊密に関連している問題を設定すべき。

③具体的な回答において、「知らない」又は「よくわからない」などの選択肢を増やし、更に調査アンケートの模擬シーンを現実生活に近づけることが推奨される。

④明瞭で簡潔な調査アンケート内容が推奨され、すべての面に配慮した過多な内容は煩雑になることも考えられる。

「市場調査都市の選択」:

一般的に、市場調査は、北京、上海、広州、深センなどの都市で実施される。しかし、個別案件については、関連都市で実施することも考えられる。

「サンプル量の選択」:

河南省高級人民裁判所が2007年4月に発表した「知名商標の認定に係る案件の審理の若干問題に関する指導意見」第11条は、「消費者及びフランチャイザーなどの関連公衆に対する調査の範囲は、一般的に、審理裁判所の所在地を含んだ、少なくとも全国5つの主要代表都市及び1,000枚の調査アンケートが必要である。」と規定する。

よって、調査結果の客観性を保証するために、サンプル量は一定程度に達することが必要である。

 

「調査報告に含まれるべき必要な内容」:

調査対象の構成、訪問方式、サンプリング方法、調査結論の形成過程などについて、調査報告において詳細に説明すべきである。

合理的かつ科学的な調査報告書として、調査の過程を記載すべき、かつ、調査アンケート又は具体的な問題を添付すべきである。

 

関連公衆がある商標を知っているかどうか、また、2つのブランドを混同しているかどうかは、関連公衆の心理認識の程度に関する判断であり、個別機関のみから得た主観的な評価を、客観的な判断に結び付けることは難しいです。そこで、全ての関連公衆の心理認識の程度を調査することは現実的には難しいため、調査会社に依頼し、無作為抽出による調査を行う方法は、より客観的に関連公衆の心理認識の程度を反映することができると考えられます。よって、調査報告という証拠形式には、現実的なニーズはあります。

現在のヒット商標案件及び司法判例から見ますと、より多くの会社は市場調査報告という証拠形式を採用し、より直観的に関連公衆の心理認知の程度状況を裁判官の目前に示すことを期待しています。しかしながら、現在の「商標法」、「商標法実施条例」では明確な規定がないため、依頼人は司法解釈及び司法判例を参考にすることはできますが、「採用されない」という事態に陥ることは免れ難いと考えます。

 

将来の案件処理においては、以下の留意点があると思われますので、ご参考になれば幸いです。

- 依頼人は調査に関して公証機関において公証を行うことができ、これにより調査報告の真実性及び証明力を高めることが考えられる。但し、この公証の費用は比較的高い。

- 調査会社とタイムリーなコミュニケーションを取ることが必要であり、案件のニーズに応じて、例えば、調査会社の係員も法廷審理に参加し、調査の経緯について裁判所が説明を要求する場合、裁判所の要求に応じて後続の手続きをタイムリーに進めるべきである。

 

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